「今日は来てくれてありがとうございました。」

「こちらこそ。声をかけてくれてありがとう。楽しかった。
すごく良かったよ、拓実くんたちのバンド。」

にっこり笑うと拓実くんは、口をあいたりひらいたりをくりかえしてから、真っ直ぐに私を見つめ口を開いた。

「悠希さん、桜木先生のかわりに俺があなたと一緒に生きていきたい。俺、悠希さんのこと笑顔にしたい。
俺じゃダメですか」

思いもよらない拓実くんの言葉に
驚いて固まる私に

「俺悠希さんが…」

たたみかけるように告白しかかる彼の言葉を遮った。

「サクラ。サクラって呼んで、拓実くん。
名前は誰にも呼んでほしくない。

それに、ごめん。
浩平のかわりなんて私は望んでない。私にとって浩平は、一生忘れることのできない大切な人だから」

不意に後ろから抱き締められる。
拓実くんに向かって話し出したそ
の声で、修二さんだとわかり、黙って修二さんの腕の中でじっとしていた。

「拓実、サクラちゃんを今日連れてきてくれたことには感謝してる。
でもお前にはサクラちゃんは渡さないよ」

拓実くんが修二さんを睨み付ける。

「修二さん結婚してるじゃないですか!」

彼の言葉に修二さんから私の頭を自分の胸に引き寄せた仁さんがいつもより低いトーンで静かに話す。

「サクラちゃんは俺のだから」

「…今日はひきさがります。
サクラさん、俺あきらめませんから!

今日はありがとうございました。
また是非一緒のステージに立たせてください」

彼らに頭を下げて拓実くんは立ち去った。