歌い終えた大翔は

「来月俺たちDesertのワンマンライブを下北沢でやるんで是非聞きにきてください」

爽やかに微笑む彼に

「行くー!」

と会場内のあちこちから声が上がる。

「おいおい、ちゃっかり自分たちのライブの宣伝かよ」

「そこで歌うはずの曲を歌わせたのは誰ですか!
マジ焦りましたから。
打ち合わせなしは酷いですよ」

口を尖らせてすねる大翔が可愛らしくて女の子たちが騒ぎだす。


「何言ってんだよ大翔、
途中で気ぃとられて指とまったくせに。そんなんじゃせっかく作った歌、誰かさんに聞かせらんないぜ」

「…」
とたんに真っ赤になった大翔が、ハットに手をあて目深にかぶり顔を隠すが、隠しきれずに耳まで赤く染まっているのが見てとれた。

胸がきゅっと甘く疼く。

くろちゃんは私の癒し。

それ以上もそれ以下も望まない…。

手放していた感情が少しずつ私の心を温めていく。
大翔は頭を下げると
「次はミスんないんで。
また、俺たちのライブも聞きにきてください。」

そう言い残しステージを去った。

そのあとのBlack mistの修二さんの歌声を私はよく覚えていない。

私の頭の中は彼でいっぱいで、彼の甘い歌声が耳に残りはなれなかった。