バラードは静かにその歌を終えて、会場内はシーンと静まり返ったままだ。

修二さんは目を開けると

「この歌をライブで歌うのは今日で最初で最後になるが、次のアルバムには加えさせてもらう。

ちょっとしんみりしちまったけど、俺と同じ〈さくら〉っていう曲名でラブソングを作った奴がいるんだが、ライブではまだ未発表だが、甘い歌声を俺たちの演奏で今から歌わせたいんだがみんないいか!」

「はぁ!?」

修二さんの言葉と観客の観客に俺は大きく目を見開き固まった。

不意に後ろからハットを被せられて、振り向くと俺のベースを手にしてニヤついているマサキが立っていた。

「はいよ。
がんばってこいよ。お前以外この曲を歌うのはみんなで打ち合わせ済みだ。」
「はぁぁぁ!?」

「違うサクラさんにむけて作った歌かもしれないが、今、目の前にいるサクラさんを笑顔にしてこい!!」

メンバーに背中を押されてステージによろけるように飛び出した俺と口角をあげて俺を見据えた修二さんとバチっと目が合った。

「歌うのはDesert のベース、大翔!!

こいつの甘い声に女の子たち、酔しれてくれ!
曲は〈さくら〉!」

仁さんのドラムのカウントで修二さんとタカさんがいつのまに練習したのだろう、俺が作った曲を軽やかに演奏し始めた。

くそっ!

二人に合わせてベースを弾きながらセンターマイクの前に俺は立った。

その視線を真っ直ぐにサクラさんに向けながら。