少し待っても返信がないので、またメッセージを打ち込む。

【実は……いつもより遅いので、なにかトラブルでもあったのかなと心配してるんです】

 数分してようやく返事があった。

【さっきまで主人と食事をしてたんだけど、お店から出たとき、社長っぽい人を見かけたんだ。人違いかなと思ったんだけど】

 それはどういう意味なのだろうか。詩穂は首を傾げながら文字を打つ。

【もう会社にいないということなんでしょうか。食べて帰るとは聞いてないんですが】
【私、酔ってたから、たぶん見間違えたんだと思う。遅い時間に変なメッセージを送ってごめんね。忘れて】

 それっきりメッセージは送られてこない。

 詩穂は、今度は蓮斗にメッセージを送る。

【先にご飯食べます。ごめんね】

 しばらく待ったが既読にならず、詩穂は落ち着かない気持ちのまま、グラタンを焼いて食べた。歯磨きをしてベッドに入ろうかと思ったが、やっぱり蓮斗を待っていたい。

 詩穂はソファに座ってテレビをつけた。どの番組も集中して見ることができず、結局お笑いコンテストに戻した。

 最後の参加者が紹介されたとき、カチッと玄関の鍵が開く音が響いた。それから慎重にドアを開けるかすかな音がする。