「他に何があるのよ」

思わず頬を赤く染めながら振り向くと、広沢くんがクスリと笑った。


「できるだけ気を付けます」

「絶対に気を付けて。職場での私とあなたの立場は上司と部下なんだから」

「わかりました。そんなことより、いつ仕事終わるんですか?れーこさん」

私の話を軽く流した広沢くんが、本当にわかっているのかどうかは怪しい。


「1時間以内には終わるかも」

「そんなに?」

オフィスの掛け時計に視線を向けた彼が顔をしかめる。


「そんなにかかったら、ほとんどの店がすぐラストオーダーの時間になっちゃうじゃないですか」

「そんなこと言われたって……」

「もう、続きは明日にして今すぐ帰りましょうよ」

まだ資料が残ったままになっているのに、広沢くんが強引にコピー機から私を引き離す。


「そんなこと、あなたが決めないでよ」

「俺との約束を断りたいから、そうしてるんですか?」

広沢くんの手を冷たく振り払うと、彼が傷ついたように瞳を揺らした。