「楽しかった」と口にしながら、広沢くんがなぜか切なげに微笑むから、胸に小さなさざ波がたったみたいに気持ちが揺れ動く。

8つも年下の会社の部下から、プライベートで一緒に週末を過ごしたあとの別れ際に、淋しそうな顔をして「楽しかった」なんて言われたら。

私はそれを、どこまで本気で受け止めて大丈夫なのだろう。


「私も、結構楽しかったわ」

頭の中でしばらく悩んたあと、仕事中に部下に向き合う上司の顔で、広沢くんに微笑みかける。

本当の胸の中はさざ波がざわめきたって揺れていたけれど、表情にも言葉にも動揺は見せないようにした。

私の表向きな笑みを見た広沢くんが、何を思ったのか小さく肩を竦めた。


「れーこさんも、楽しんでくれてたならよかったです」

切なげな目をした広沢くんが、おもむろに私に向かって手を伸ばす。

その指先がそっと左頬に触れて、思わず肩がビクリと揺れた。

自分でも過剰に思えた反応に、広沢くんがクスリと笑う。

それから、私の目をじっと覗き込むように見つめたかと思うと、低く穏やかな優しい声でささやいた。