15年目の小さな試練

「あいつ、一体、どこを目指してるの!?」

 思わずうなると、ハルちゃんは真顔で続けた。

「あのね、この前、カナが焼いてくれたクッキー残ってるんだけど、晃太くん、食べる?」

「……え? ハルちゃん、ごめん。もう一回聞いてもいい?」

 何か不思議な言葉を聞いた気がする。

「あのね、カナがクッキー焼いてくれたの。お庭で取れたハーブが入ってるのもあるよ?」

「ちょっと待って!? 叶太がクッキー作ったって言った!?」

 この際、庭で取ってきたハーブって言葉は無視しよう。それより、すごい言葉が聞こえてきたから。

 ハルちゃんは、

「そうだよね、やっぱり驚くよね」

 と小さな声で呟いた。
 どうやら、掛け値なく本当のことらしい。

「……食べさせてくれる?」

「うん。取ってくるから待っててね」

 ハルちゃんはゆっくり席を立つと、キッチンの方へと歩いて行った。

 叶太がハルちゃんのために、結婚前に料理の練習していたのは知っている。一緒の家に暮らしていたんだから、叶太の手料理は修行中から食べていた。
 だから、みるみる上達して、結婚する頃には結構な腕前になっていたのも知ってる。

 でも、だからって、お菓子作りにまで手を出すか!?

 女子力高過ぎだろ、叶太!

「晃太くん、はい、どうぞ」 

 ハルちゃんが持ってきてくれたのは、四角い形の素朴な感じのクッキーだった。

 よかった。

 プロ顔負けの懲りまくったものが出て来なくて、なんかものすごくホッとした。

 だけど、一口食べると、その味は親父のところに届けられる高級な手土産とかに遜色ない味で……。

「……うまいね、これ」

「ね?」

 ハルちゃんは困ったように小首を傾げる。