15年目の小さな試練

「お待たせしました」

 ハルちゃんが小さなお盆を持ってリビングに入って来た。葉っぱから入れたと思われる紅茶の良い香りが漂ってくる。

「ありがとう」

 ハルちゃんはお盆をローテーブルに置いて、俺の前にティーカップを差し出した。

「レモンとミルク、どっちが良い?」

「そうだな~、美味しそうだから、まずはストレートで」

 そう言うと、ハルちゃんはニコリと笑って、向かいの席に座った。

 ハルちゃんのカップには最初からはミルクティーが入っていた。

「いただきます。……美味しいね、これ」

 本当に美味しい。葉っぱも良いものを使っているのだろうけど、多分、入れ方がすごく上手なんだと思う。

「ありがとう。あの、沙代さんが入れてくれたの。わたしは上手く入れられなくて」

「あはは。俺だって無理。自分で入れるのって、フィルターのコーヒーくらいかな」

「そっか。……わたしはティーバッグの紅茶くらいかなぁ」

 それから、ハルちゃんは内緒話をするように声のトーンを落とした。

「あのね、カナ、すごいのよ」

「ん? 叶太? あいつ、紅茶とか入れるの?」

「普通の紅茶も上手だけど、最近、お庭でハーブを摘んできて、ハーブティーとか入れてくれるの」

「……え?」

 予想外の答えに、思わずハルちゃんの顔をマジマジと見つめてしまった。

「ハーブティーって?」

 あれだよな、カモミールティーとかローズティーとか?

「あのね、お庭でミントとか、レモンバームとか摘んできて、それを使って生のハーブティーを入れるの」

「乾燥したのじゃなく?」

 いや、そもそも、生のハーブティーなんて存在してるの? 初耳なんだけど。

「うん、生のハーブを使うの。美味しいんだよ」

 いや、待て。普通に紅茶を入れるのだって意外だったのに、庭のハーブで入れた美味しい生のハーブティーとか、何それ。