15年目の小さな試練

 身体のことがなければ、それもまた人生の一幕で済むのかも知れないけど。

 それにしても、気持ちいい。
 ああ、癒される。

「えっと、……晃太くん?」

 ……あ。

 やっば。こんなのバレたら、叶太に何言われるか。

 俺はそっとハルちゃんから手を離す。そうして、満面の笑みを浮かべて、ハルちゃんの顔を覗き込んだ。

「ありがとう」

「え?」

「嬉しかった。……いつか、って俺が親父の会社に入った後だよね」

 取りあえず、来年はまだ親父の会社には入らずに他社で修行予定。それでも何年か後には、間違いなく親父の会社に入ることになる。

「う、うん」

「楽しみに待ってるね、ハルちゃんのアドバイス」

「え!? ち、違うよ!? アドバイスなんて大層なことは考えてないの」

 ハルちゃんは慌てて両手を振る。

「えっとね、経営学を勉強していたら、話を聞いたり愚痴を聞いたり、それくらいならできるようになるかなって思っただけで……」

 もちろん、分かってる。ハルちゃんはそう言うところ、本当に控えめだから。

 だけど、慌てるハルちゃんはやけに可愛くて、思わずまた頭をなでてしまう。

「晃太くん、お茶! お茶用意するから、居間に行こう! ね?」

 ハルちゃんは何故か真っ赤になって話題を打ち切ると、ゆっくり立ち上がった。