15年目の小さな試練

 そこで言葉を切り、しばらくの沈黙の後、ハルちゃんは恥ずかしそうに言った。

「なんて言うか、経営学を勉強しておいたら、いつか……いつか、少しでも、カナとかお兄ちゃんとか、それからね、晃太くんの……役に立てるかも、って思って」

 そう言いながら頬を赤くしたハルちゃんは、慌てたように、

「あ、あのね、厚かましいこと言って、ごめんね」

 と俺の顔をあおぎ見た。

 そこでようやく、ハルちゃんの言った言葉が身に染みてきて、ストンと自分の中に落ちてきた。
 何の打算もない穏やかな好意を向けられて、心がほっこりと温まる。

 気が付いたらハルちゃんを抱きしめて、ハルちゃんのふわふわの髪の毛をくしゃくしゃにして撫で回していた。

 ハルちゃんはベッドに座っていて、俺は立っていたから、ハルちゃんの頭は俺のお腹の辺りにある。

 ハルちゃんの髪から、ふわっとラベンダーの香りが漂ってきた。

 頭ちっちゃ、でもって髪の毛サラサラのふわふわ。そして、ハルちゃんは力を入れたら折れそうに細かった。
 細いのは知ってたけど見た目以上にほそっこい。もう病的な細さだ、ってか正真正銘、病気なんだけど……。

 女の子らしい柔らかなラインの服とかふわふわの髪とか、ほんわかした見た目にごまかされてた。筋肉どころか脂肪だって、ほとんどないだろ?

 これは、叶太も心配になるわ。

 人を疑うことを知らない純粋さにしても、目の前のことをそのまま素直に受け止められる心の在り様にしても、気負わず自然に人のために動けるところにしても、ハルちゃんを一人にしたら誰かに傷つけられるんじゃないかと心配になる。