15年目の小さな試練

「えーっと、ハルちゃん、これ全部読んだの?」

「ううん」

 だよね~。とホッとしたのは一瞬だった。

「CSRの本はまだ読みかけだよ」

「あ~、じゃあ後は全部?」

「うん。完璧に理解しているとは言えないかも知れないけど、一応読んだよ」

 一応で読めるものなだろうか、これ。

 て言うか、ハルちゃん、実は完璧に理解……できてるんじゃない?

「いつから読み始めたの? すごい量だよね?」

「えーっと、学部の希望を出した後からだから2月から……かな?」

「3ヶ月ちょっとで、これ全部、か。すごいね」

「え? それだけあったら、これくらいは読めるよね?」

「……え?」

「あれ? あ、もしかして、晃太くん、本あんまり読まない?」

「……あ、そっか。ハルちゃん、読書が趣味だっけ」

「うん」

 ハルちゃんはニッコリ笑う。

「元々、興味があると分野問わずに何でも読むの。だから、この本も面白かったよ」

 子どもの頃に読んだらしい児童書やハードカバーの小説やルポ、ノンフィクションまで、ハルちゃんの本棚には色んな本が並んでいる。よく見ると、経営学の本の少し上の段には心理学関係の本が簡単そうなものから小難しそうなものまで、数十冊も並んでいた。

 ああ、なんか納得。心理学の本にしても翻訳ものの小難しそうなタイトルのなんか、普通、高校生が読むとは思えないものだった。そんな本を趣味で読んでいたハルちゃんだ。内容が経営学になったとしても、読むには支障ないのだろう。

 あれ? でも、じゃあ……。

「ハルちゃん、心理学の本がいっぱいあるんだけど、なんで心理学部にしなかったの?」

「ん~、えっとね、本、いっぱいあるでしょう? 読んだだけで、結構満足しちゃって。……後ね、」