15年目の小さな試練

 なんて言うか……すごく強い風が通り過ぎていったみたいな感じ?

 呆気に取られていると、晃太くんはふっと笑みを浮かべた。

「気にしなくて大丈夫。まだ時間あるし、ゆっくり食べたらいいよ」

「えっと……はい」

 時間があると言っても、薬も飲まなきゃいけないし、移動もある。授業前にトイレにも寄りたい。そう考えたら、余裕たっぷりという程の時間はもうなかった。
 わたしは改めて、沙代さんのお弁当に手を付ける。

 と、和田さんが申しわけなさそうに声を上げた。

「……ごめんね、変な話題振って」

 ちょうど口におかずを入れたところで声が出せず、ふるふると左右に首を振る。

 口に入れたつくね団子を咀嚼しながら、ふと晃太くんと和田さんを見ると、二人はもうすっかり食べ終わっていた。

「ハルちゃんてホント、丁寧に食べるよね」

 晃太くんがにこりと笑う。

「うん。一口三十回噛むってお手本みたい。食べるの自体もゆっくりだし、だから満腹中枢、その量でも満足するのかな」

 続いた和田さんのその言葉に絶句。

 しっかり噛まなきゃ、ただでさえ大量の薬で荒れてる胃への負担が大きい。そう思って、やっていたけど、もしかして、そのせいで食が進まないの……!?

 だったら、噛まずに急いで食べたら、もう少し食べられて体力が付くとか!?

 ……まさか、ね。
 胃を壊して、ひどい目にあうのがオチだよね。

「えーっとハルちゃん、何を考えてるか想像つくけど、取りあえず食べちゃおうか?」

 晃太くんはまたくすくす笑いながら、そう言った。

「あーごめん、俺なんかまた余計なこと言ったかも?」

 和田さんは実に申しわけなさそうに頭に手をやった。

 わたしは恥ずかしさで顔が上気するのを感じながら、慌てて残りのお弁当に手をのばした。