15年目の小さな試練

 えみちゃんとは、4月のオリエンテーションで一度同じグループになったくらいの関係。それ以降も話す機会もほとんどなくて、だから、多分えみちゃんはわたしの身体の事をほとんど知らない。階段が苦手、くらいは知っているみたいだったけど、それを知っているのも驚いたくらい。

 ただ、とても人なつっこい子だから挨拶は交わしていたし、専門ではほんとんど同じ授業を取っているから、会えば話しくらいはする。そして、今日の二限目は本当に席を取っておいてくれたから、初めて一緒に授業を受けた。

 そんな程度の仲だったものだから、なぜ今一緒にご飯を食べているのか、とても不思議で……。正直、どうすればいいのか、わたしは戸惑うばかり。

「それだけじゃ、お腹空かない?」

 好意で言ってくれているのは分かるけど、本当に食べられないのだし、これで十分足りている。これ以上、どう言えば分かってもらえるのだろう?

 返す言葉に困っていると、お蕎麦をすすっていた晃太くんが助け船を出してくれた。

「あのさ、ハルちゃん、昔からホント小食だから。あんまり突っつかないであげて?」

 穏やかな笑みと一緒に言われた言葉だったけど、どこか強い力が働いていて、えみちゃんは驚いたように目を見開いた後、「はい」と頷いて、それきり黙ってしまった。

 そうして、今度はこの気まずい空気をどうしたものかと思っていると、えみちゃんはすごい勢いでパンを食べてしまい、

「ごちそうさまでした」

 と、パチンと両手を合わせて食後の挨拶をする。

 そうして、

「それじゃ、ハルちゃん、またね~! 叶太くんのお兄さん、お友だちさん、お邪魔しました!」

 と元気に挨拶をして、席を立って行ってしまった。