「だったら、相談に乗るなんて大層なことはできなくても、愚痴を聞いたり、話を聞いたりするくらいは、できたらいいなって思ったの」

 オレは思いもかけなかったハルの言葉を、相槌も打てずにただ聞くしかできなかった。

「話を聞いたからってわたしには、何にもできないのだけどね、それでも、話を聞いて、相槌を打つくらいなら、できるかなって」

 ひたすらに穏やかなハルの笑みに引き込まれる。目が離せない。

「経営者の人って、誰にも言えずに一人で悩むこと、多いんでしょう? パパはよくママに色々話してる。ママは何を答える訳でもないみたいなのだけど、まったく違う職業、視点が新鮮で参考になるって、パパから聞いたことがあるの」

 オレは、うん、とただ頷く。

「もしかして、社会に出てお仕事はできなくても、経営学をちゃんと勉強したら、……本当にもしかしてなんだけど、わたしでも、少しでも何かの役に立つことが言えるかも知れないと思ったら、……一度ちゃんと勉強したいなって思って」

 ハルは最後、とても照れくさそうに笑った。

「そっか。……うちのお袋も、仕事はしてないけど、親父の話はよく聞いてる」

 あの親父が、意味もなく経営のことを口にすることなんて考えられない。
 そっか。お袋に話すことで頭の中を整理していたのかも知れない。もしかしたら、自分にはない何かを求めて話していたのかも知れない。

 ハルはちゃんと、しっかり考えた上で選んでたんだ。オレのためとか、親父やお義父さんの要請とかじゃなく。
 卒業しても就職できないだろう自分を理解した上で、それでも家族のために、自分ができる事をしようと考えて選んだんだ。

 仮にオレがお義父さんの会社を継ぐとしても、相当先の事になる。明兄が一人前の医者になって、牧村総合病院の院長になるのだって、かなり先だ。既に大学院生で、明兄やオレより一番早く、経営陣に入りそうな兄貴だって、数年後とか、そんな近い未来じゃない。

 だけど、二十歳より先のイメージがなかったというハルは、もっと先を見据えて、何を学ぼうかと考えていた。