ああそうそう。顔色は、……うん悪くない。俺の方を不思議そうに見上げてるハルちゃんにようやく笑いをかみ殺して笑顔を向ける。
 都合、無視される形となったハルちゃんの友だちらしき子もついてくる。

 いいのかな? エレベーター使うから遠回りだけど。

 そう思っていると案の定、階段前で、

「ハルちゃん、上がらないの?」

 と階段を指さす。

 なるほど、ね。送り迎えをして欲しい、と繰り返し言っていた叶太の心配がどこにあるか分かった気がした。

 エレベーターのない高校とは違い、事情があれば自由に使えるエレベーターのある大学。だけど、学生はできるだけ階段を使うようにと言われてることもあり、たった一階なら普通は階段を使う。
 そして、ハルちゃんも余分な体力を使うとはいえ、一階分くらいなら階段の上り下りもできる。だから、同級生が一緒にいたら合わせるのだろう。

 歩くのだって、普通の人の速度はハルちゃんには相当辛いはずだけど、教室移動くらいならと無理して付き合うのだろう。

 その少しが一回二回ならともかく一週間積もったら、多分、ハルちゃんの心臓にはかなりのダメージなのだと思う。(叶太はその一回二回も許さないだろうけど)

「エレベーター使うから、ごめんね。急いでるなら、こっちからのが早いと思うよ」

 ハルちゃんが階段を上ろうとする前に俺が言うと、その子は小首を傾げたが、

「そっか。ハルちゃん、階段ダメだっけね」

 とニコリと笑った。

「分かった。お邪魔みたいだし、先に行くね。席は取っておくからゆっくりおいでね~」

 その子は楽しそうな笑顔を見せると、数度手を振って軽やかに階段を駆け上がった。

「……えみちゃん」

 別に邪魔じゃないよと呟き、呆然としているハルちゃんの隣で、俺はまた笑いをこらえる羽目となった。