15年目の小さな試練

「ハルちゃん、お疲れ様」

 余裕を見て5分前に着くと、程なくドアが開き学生たちが外に出てきた。ハルちゃんはその中でも一番最後の方に出てくる。きっと前の方で真面目に授業を受けているのだろう。

「晃太くん、お待たせしました」

「大して待ってないよ」

 相変わらず恐縮しまくりのハルちゃんに笑いかけながらそう言って、鞄に手を伸ばす。
 一瞬申し訳なさそうな顔をするものの、ハルちゃんは、

「ありがとう」

 と素直に言って渡してくれた。

「なになに、ハルちゃん、浮気? 旦那さまに言いつけちゃうよ~」

 一緒に出てきたらしい女の子がからかうように言う。

「え? 違うよ~」

 ハルちゃんが大きな眼を見開きながら、小さく左右に首を振った。
 そうそう、違います。何しろ、そのハルちゃんの旦那さんに一生のお願いと頼まれてのことだからね。

「冗談冗談。叶太くん束縛きつそうだもんね。いいよ、大丈夫! 内緒にしてあげるから、たまには他の人とも話したらいいし」

 叶太、お前ダメじゃん! 束縛はダメでしょ! しかも、色々勘違い入ってるっぽいし!

 思わず吹き出すと、二人の視線が俺に向かった。

「ご、ごめんね」

 思わず視線を外してくすくす笑いながら謝る。

「……晃太くん?」

 ダメだ、止まらない。

「……うん。行こうか。次は一つ上の階だっけね?」

 笑いながら、そっとハルちゃんの背を押し歩き出す。