15年目の小さな試練

「それじゃあ、頑張ってね」

 三号棟の四階、一限目の教室にハルちゃんを送り届け、教室前の廊下で鞄を手渡す。
 ハルちゃんは鞄を受け取ると、

「晃太くん、わざわざ、ありがとうございました」

 とペコリと頭を下げた。

 律儀だよな~と思いつつ、ふわりと揺れる長い髪が気になり、つい頭に手を置いた。そのまま、何となく、小さい子にするみたいによしよしと手を動かしてしまう。

 うーん、柔らかくて気持ちいい。

「晃太くん?」

「あ、ごめんごめん。なんかふわふわして気持ちよさそうだったから」

 笑いながら手を引っ込めると、ハルちゃんも笑った。

「こんなのでよければ、いつでもどうぞ」

「あはは。じゃあ、叶太がいない時に、ね。今週はチャンスかな?」

 叶太の前でやったら、間違いなく文句を言われる。
 ハルちゃんも想像したようで苦笑いを浮かべた。

「じゃあ、終わる時間に、またここで待ってるね」

「え? いいよ、大丈夫! ちゃんと次の教室に自分で移動できるし」

「まあ、初日くらいは叶太の希望を叶えてやるって事で、ね? この時間空いてるから、そう手間でもないし」

 話す俺たちの側を通って、学部生たちが一人、また一人と教室に入っていく。

「そろそろ入らないといい席なくなるんじゃない? あ、具合が悪くなって教室を出たり、早めに授業が終わったりしたら、電話ちょうだいね?」

「……うん」

 実に申し訳なさそうに、ハルちゃんは頷き、そして教室の中へと入っていった。