叶太から聞いたところによると、ハルちゃんは大学生になっても飛び抜けて優秀で、演習1の授業では、一人だけやたらと難しい課題を出されているらしい。

 一年次の演習はクラス単位だ。クラス単位ではあるけど、中では5~6人ずつの班に分けられて、グループワークで課題解決を中心に学ぶ。
 四月は基礎的な内容で課題は個人のものだけ。五月からはグループワークが入って来て、六月になると一回の授業では終わらないグループ課題も課せられる。最初は分かりやすくマーケティングみたいな内容が多いけど、経営戦略もファイナンスについても考えさせられる。

 ハルちゃんと叶太のクラスの担当は山野准教授。うちのゼミの教授とは研究室がすぐ側だから、山野先生はよく知ってる。明るくてサバサバした感じのキツメの美女。そして、今、うちの学部で一番の出世頭と言われている。

 その山野先生が今年から演習1で、習熟度別課題を取り入れられていると聞いて驚いた。習熟度別、つまり、できる子はどんどん難しい問題を解かされる。

 ハルちゃんと叶太、大丈夫かと少しばかり心配していたけど、この調子なら大丈夫そうかな。

「難しくない? 山野先生の授業とか」

 先生の名前を出すと、ハルちゃんの表情が少し揺らいだ。悪い方にではなく、つぼみが開く前にほんの少し膨らみを持つように、嬉しそうに。

 だけど、その後に出てきたハルちゃんの言葉は予想外のものだった。

「うん。……あのね、少しだけ、入学前に予習してあって、おかげで何とか付いていけてる感じ」

「入学前に予習!?」

 思わず声を上げると、ハルちゃんは大きな眼を見開き、数度瞬きをした。