「何ていうか、……体調がどうとか、体力がどうとかじゃなくって、」

 ハルが言いたいことは、分かりたくないけど、よく分かる。
 だけど、ハルの口から聞きたくない。

 でも、ハルがこんな話をするのは初めてで、それを止めるなんてこと、オレにできるはずもなく……。

 オレはハルの手をそっと握り、聞いてるよとハルを見返すしかできなかった。

「わたし、就職できる年まで、自分が生きてるって思ってなかった」

 きっとそうだと思いつつも、実際にハルの口からその言葉を聞くと全身に衝撃が走った。
 反射的に、拳を握りしめそうになり、ハルの「いたっ」という声に、自分がハルの手を握っていたのを思い出し、慌てて力を抜く。

 ハルが、

「ごめんね」

 と気遣わしげにオレを見た。ごめんは、オレの言葉だと言いたいのに、声が出なかった。
 そうして、オレは左右に首を振る。

「……えっとね、で、今でも、二十歳を過ぎた自分のイメージはないのだけど、けど、カナの奥さんになって、一緒に大学生になることになって、」

 そこでハルはふっと微笑んで、オレの頰に手を当てた。

「ちゃんと考えなきゃなって思ったよ」

 オレはぎこちない動きで腕を上げると、ハルの手に自分の手を重ねた。

「カナはいつかパパの会社を継ぐでしょう? お兄ちゃんはいつか、おじいちゃんの病院を継ぐでしょう? 晃太くんはいつか、お義父さまの会社を継ぐでしょう?」

 明兄と兄貴は分かる。

 だけど、オレもか!? オレがお義父さんの会社を継ぐのは決定事項なのか!?
 そりゃ、かなりそれらしき言葉をかけられてはいたけど……。

 ハルは目を丸くしたオレを見て、優しく微笑んだ。