「えーっとさ、登下校くらいは付き合うけど、院生の俺がハルちゃんの授業にくっついて出るわけにはいかないってのは、叶太、分かってるよね?」

 兄貴の声からは戸惑いがにじみ出ていた。

「え!? 助手になって潜り込んどいてよ!」

「ムチャ言うなよ」

 電話機の向こうから、兄貴の苦笑いが聞こえてくる。

「じゃあ、教室までの送り迎えと、昼休み!」

「送り迎え?」

「九十分授業って、結構きついんだよ。ハル、今のところ頑張ってるけど、それでも終わった後はかなり疲れてて、四月にも何度か、途中で授業を抜けて医務室に行ってるし」

「ああ、確かに高校よりはきついかもな」

「高校みたいにクラス毎に授業を受ける訳じゃないし、安心してハルを任せられるヤツもいなくて」

「うーん、どうしようかなぁ」

「だから、授業が終わる頃に迎えに行って、次の授業の部屋まで送ってってよ。

荷物はハルに持たせたらダメだよ? 遠慮すると思うけど、ちゃんと持ってあげてね?

で、長く歩かせないでね。どうしても移動が長い場合は途中で休憩ね?

あ、後、一階上がるだけでもエレベーター使わなきゃダメだよ?

それから顔色が悪かったり、呼吸が苦しそうだったりしたら、絶対に授業には行かせないで。家に帰すか、最低でも医務室に連れて行ってね?

ハル、すぐ無理するから、先回りして止めてよ?

それから、家に帰ってからは……」

「……叶太」

「ん? 何?」

「えーっとさ、お前が過保護だって知ってたけど、ほんっとーに過保護だな」

 しみじみとした声で兄貴が言う。

「え、いや、これくらい普通でしょ?」

「……普通の定義が間違ってるな」

「えー」

「あのさ、要望を全部聞くのは、基本無理」

「そんな~」

「まあ、できるだけはしてやるよ」

「兄貴! このお礼はいつか必ずするから!」

「まあ、可愛い妹のために一肌脱ぐさ」

 兄貴は半分笑いながら、そう言ってくれた。



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