ピピピピ。

 発症に気付いてから二十時間ほど経った日曜日の夜八時。
 ベッドに寝転がったまま、脇の下から体温計を取り出す。
 39度ちょうど。

 まだ熱は下がらない。それどころか上がってるし!

 ため息を吐くオレの表情を見て、お袋が手を伸ばす。

「熱が下がってから5日だったかしら? ……それとも、発症から5日?」

 オレから体温計を受け取ったお袋は、小首を傾げた。

「そこに紙置いてあるよ」

 とテーブルの上を指さしつつ、

「今日、最短で月曜日って言われた」

「あら、長いわね」

「念のため、普通より2日長くハルには会わないでって。登校ってだけなら最短で土曜復帰だったんだけど、土曜日は休みだから」

 ただ、平日に解禁になったとしても、ハルが登校するならオレは休まなきゃいけなかったから、多分、同じことだ。
 昨日の夜から間もなく一日。丸一日ハルの顔を見られていない、ハルの温もりを感じていないなんてあり得ない!

 けど、万が一ハルに移したらと思ったら、こっそり物陰から顔を見ることすら恐ろしくてできない。

 ハルは小学校の低学年の頃、何度かインフルエンザにかかって死にかけている。本当に危険だったみたいで、それ以来、インフルエンザが流行し始めると、毎年、学校を休んでいるくらいだ。

「インフルエンザなんて、何年振りかしらね? ……っていうか、もしかしてあなた始めてじゃない?」

「そうかも。覚えてる限り、かかったことないから」

「まあ、インフルエンザで熱があるにしては元気だし薬も使ったし、ご飯もしっかり食べられているしね。じき良くなるわよ」

 お袋は脳天気に笑う。

「迷惑かけてごめんね」

 と言ったら、

「嫁に出した息子が帰ってきたようで楽しいわ」

 なんて、突っ込みどころ満載のコメントすらくれた。

 明日には熱が下がってくれたら良いんだけど、ホント。解熱のタイムリミットが水曜日だからって、ずっと熱出して心配かけるのはごめんだよな。


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