15年目の小さな試練

 何はともあれ、ハルに報告だ。

 病院を出て家に戻ると、オレは速攻ハルに電話した。
 夜中、突然オレがいなくなって、ハルが心配するといけないから、実家に戻った直後にお義父さん、お義母さん、沙代さんの三人にメール連絡をした。
 だから、ハルももうオレが熱を出して実家に戻っていることは知っているはず。

 何度かの呼び出し音の後に聞こえたハルの声。

「はい、陽菜です」

 自分の携帯にかかってきているのに律儀に名乗るそんなところも大好きだ。

「ハル? おはよう」

「おはよう。カナ、大丈夫?」

 ハルの心配そうな声に申し訳なさが募る。

「うん。大丈夫。熱はあるけど元気だよ。なんだけど、……あのさ、なんか、オレ、インフルエンザにかかっちゃった」

「え? インフルエンザ?」

 ハルが驚いたような声で聞き返した。
 だよな。オレだってビックリしたし。

「うん。A型だって」

 一呼吸置いた後、ハルが言った。

「こんな時期でもインフルエンザって、あるんだね」

「……だよな?」

 ああ、ダメだ。なんで今、オレの横にはハルがいないんだろう?

「ハルに会いたい」

「ごめんね」

「ああ~! ハルを責めてるんじゃないよ!?」

「本当はわたしが看病したいのだけど」

「ダメダメダメダメ! ごめん! オレが悪かった! すぐ治すから、ハルは待ってて? ね?」

 オレの慌てっぷりがおかしかったのか、ハルはくすくす笑う。

「はい。大人しく待ってるから、早く治してね」

「ん」

「……でも、ごめんね」

「ハル、謝らないで」

「うん。……わたしも、早く会いたいな」

「すぐ! すぐ治すから!」

 ハルはまたくすくす楽しそうに笑った。

「首を長くして、待ってるね」


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