背後からわたしを抱え込むようにしていたカナの腕にきゅっと力が入る。

「……だよね?」

 見上げてそう聞くと、カナは諦めたように小さく頷いた。

「具合を悪くって、」

 谷村くんも言葉を濁す。
 わたしに持病があるのを知っているから、聞きにくいのかな?

「心臓の調子が悪くなって、結局、カナの試合は見られずに帰ったの」

「それは……大変だったね」

「ううん。大したことなかったんだよ? ただ、周りの人が心配して、誘われることもなくなって。で、結局それ以来、一度も見に行ってなくて」

 カナが真面目な声で口を挟んだ。

「オレも心配。だから見なくていいよ」

「もう大丈夫だよ?」

「本当に大丈夫かなんて分からないし」

「だって、あの時は子どもで、何も知らなかったから」

「理性と感情は別物だから」

 何が何でも見たいと思っていたわけじゃない。何しろ、今日までの長い間、そこに何の疑問も持っていなかったのだから。

 ただ、改めて見たいかと聞かれたら、見てみたいと思うのは自然な気持ちだった。だってカナが、大切な人が十年以上続けてきたものだよ? 見たいと思ったっておかしくないと思う。

 だけど、ここで言い争うのもごり押しするのもおかしいと思ったら、もう言葉が出てこなくなった。
 その微妙な空気を感じたのか、谷村くんが、

「あーもうなんか、ごめん!」

 と両手をパンッと合わせて、頭をぺこりと下げた。
 谷村くんの朗らかな人柄のおかげかな? なぜか、一瞬で重い空気が飛んでいく。
 カナも小さく息を吐いた後、

「いや、オレの方こそ悪かった」

 と、固くなっていた表情を崩して、谷村くんに謝った。