15年目の小さな試練

「ハル、大丈夫?」

 帰りの車の中で、カナがとても心配そうにわたしを見た。

「大丈夫だよ」

 正直、ダメージがないと言ったらウソだ。だって、勇気を振り絞って話した結果があれだったから。
 それについては、虚しさしかない。

「……話しても、分かりあえない相手って、いるんだね」

 思わず、ため息がこぼれる。

 もしかしたら、わたしの話し方が悪かったのかも知れない。でも……。

 ヒステリックに叫ぶ山野先生の姿が脳裏に浮かぶ。


「あなたみたいに身体が悪くて、だけど、為すすべもなく死んでいく子だって、世の中にはいくらでもいるでしょう! すべてを持っているあなたが、偉そうに言わないで!」

 分かってる。

 自分がとても恵まれているって。

 ズルいと言われたら、否定できない。

 もし、別の家に生まれていたら、わたしは今、生きていないかも知れないと、痛いほど分かるから。

 小さい頃から特別室にしか入院していないからか、わたしには同じように病気を抱えた友だちと言うのが、ほとんどいない。
 ほとんどと言うか、十八年生きてきて、お互いの病室を訪ねあうほど仲良くなったのは、七つ上の瑞希ちゃん一人だった。

 十七で突然の急変で亡くなった瑞希ちゃんが、何か特別な治療をしたら助かったとは思えない。

 お金があればすべてを解決できると思うほど、わたしはもう子どもではない。

 それでも、お金さえあれば助かる人がいるのも、多分事実で。わたしが今、休み休みでも大学に通えているのは、きっと過去にわたしの手術をしてくれた名医の先生方のおかげだから……。