15年目の小さな試練

 出された課題を一生懸命解いた。だけど、頑張れば頑張るほど、山野先生との距離は開いていく気がしていた。

 自分は何を求められているのだろう? 仮に失敗を求められているのだとしても、わざと間違えるなんてできるはずもなくて……。

 先生は表面上はいつもほめてくれたから。だから、更にどうすればいいのか分からなくなった。

 この数ヶ月間で、いつの間にか心の奥が凍りついていた事に今更気付く。

 それが久保田先生の言葉で静かに溶けはじめていた。
 頑張ったことをただ誉められただけ、暖かな言葉をかけてもらっただけなのに……。

 自分がしたことを認められるというのは、どうしてこんな心を満たすのだろう?

「……ごめ…なさ」

 止まらない涙で息が荒れる。

 言葉にならないなら、せめてと笑顔を浮かべて、わたしはゆっくりと頭を下げた。
 心からの感謝の気持ちを込めて。

 顔を上げると、久保田教授がきれいにアイロンを当てたハンカチで、わたしの涙を拭ってくれた。

 そして、にこりと笑う。

「来年、待ってますよ」

「はい」

 わたしの答えに満足そうにうなずくと、久保田教授はカナに目を向けた。

「旦那さんの方は、もう少し頑張ってね。私のゼミは倍率が高いよ」

 面白そうに笑いながら、教授はポンポンとカナの肩を叩く。

「はい! 精進します!」

 カナが瞬時に姿勢を正し真顔で返事をする。

 それを見た晃太くんが、クスッと笑いをこぼした。



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