15年目の小さな試練

 ハルちゃんは山野先生の言葉を聞いて、悲しげに笑みを浮かべた。

「叶った初恋の相手は、自分の寿命の遥か前に死ぬことが分かっていて、その後、四十年も五十年も一人で過ごすかも知れないんですよ? 結婚しても、子どもは望めないから。

 それに仮に…もし新しい出会いがあったとしても、かつていたわたしという妻の存在は、きっと彼の生活の影となります」

 ハルちゃんの言葉の意味がゆっくりと脳裏に染み込んでいく。

 今にも泣きだすのではないかと思うくらい、ハルちゃんの表情は辛そうだった。

 そして、その言葉に虚を突かれたようにハルちゃんを凝視する先生。

「だけど……!」

 それでも何か反論を言おうとして口を開いた先生の言葉は、数秒口を開けたまま、結局何も続けることができずに、そこで止まった。

「……いいんです、別に分からなくても。でもね、先生。そんな感じで、傍目には幸せそうに見えたって、プラスのカードだけを持って生きている人なんて、まずいないんですよ」

 ハルちゃんはとても静かに言い、言葉を切った。
 そして、少しのためらいの後、スッと頭を下げた。

「長々と話をしてしまい、すみませんでした」

 それから、穏やかに言葉を続ける。

「最後に、もう一度お願いです。これ以降の個人課題は免除して頂けませんか?」

 だけど、ハルちゃんの願いは、懸命に語られた言葉は届かなかったようで、その言葉を聞いた瞬間、山野先生は両手でドンッと机を叩きながら立ち上がった。

「あなたは!! まだ、そんな勝手な事を!!」

 怒りに駆られて、ハアッハアッと山野先生の息が荒れる。