15年目の小さな試練

「先生、私には先生と同じだけの持ち時間はありません。今、後何年生きられるかは聞いていませんが、二十歳を超えられるかどうか、大学を卒業できるかどうか、そんなところだと思います」

 ハルちゃんの心臓の状態が良くないのは知っている。何度も手術していて、それでも完治していないのも知っている。だけど、その口から余命なんて言葉が出ると、実際に数年後だと言われると、背筋が凍るかと思うような、胃をわしづかみにされたような思いがした。

 ハルちゃんは自分の余命というものを考えている。

 多分、ずっとずっと意識して生きて来たんだと、まるで動じず、淡々と語るハルちゃんを見ていると、それが分かった。

「それでも、先生はわたしを羨ましいと思いますか? ……先生は、私のような人生を望みますか?」

 ハルちゃんの語りが終わり、山野先生に質問を投げた。

 ハルちゃんの言葉にひるんだ先生は、だけど次の瞬間に噛み付かんばかりに怨嗟の表情を浮かべた。

「あなたは周りから大事にされまくって、お金も使いたい放題で、誰もが振り返る可愛い顔して、そんな年で結婚までしているじゃない!

あなたみたいに身体が悪くて、だけど、為すすべもなく死んでいく子だって、世の中にはいくらでもいるでしょう!

すべてを持っているあなたが、偉そうに言わないで!」

「山野先生!」

 何てこと言うんだ!

 既に、会話にすらなっていない。