15年目の小さな試練

 論理も何もあったもんじゃない。

 それは、多分、ただ、ハルちゃんが豊かな家庭に育ったのが気に入らないというだけ、ハルちゃんが頭が良いのが気に入らないというだけの話で……。

「ああ、そうそう。こんな場所にまで付いてきてくれる優しいお兄さまもいらっしゃるのよね。今日は旦那さまじゃなかったのね。同い年の旦那さまより、院生のお兄さまの方が心強かったかしらね?

 今度は、広瀬コーポレーションの社長から圧力がかかるのかしら?

 ホント、世の中には、こういう苦労知らずのお嬢さまもいるのね。羨ましいものだわ」

 先生はジロリとハルちゃんを睨みつけた。心の底から忌々しいという表情で。

 ハルちゃんはキュッと唇を引き結んで、目線を下げて、硬い表情のままに先生の言葉を聞いていた。

 もう充分だろう。

 今日はもう帰ろう、後は学長辺りと話をした方がいい、そう思うのに、ハルちゃんは動こうとしない。

 ハルちゃんがスッと顔を上げ、山野先生を見据えた。

「……先生は私が持っているものだけを見ていて……、私が持っていないものは見ていないんですね」

 いつになく厳しいハルちゃんの声、そして表情。人を責めるような、こんな顔もできたのだと驚く。

 ほんの一瞬ためらった後、ハルちゃんは静かに続けた。

「寄付金を積み上げて、配慮をお願いしたこと、申し訳ありませんでした」

 ハルちゃんはゆっくりと頭を下げた。

 山野先生はハルちゃんの行動の意味が分からないようで、怪訝そうに眉根をひそめた。