15年目の小さな試練

 いや、それはダメでしょう。
 山野先生の授業は単位を落としたら留年が決まる必修科目だ。

 だけど、そもそもハルちゃんは一年次に必要なだけの知識は既に持っている。それを三年や四年で学ばせるような課題を出して、できないから留年させるって、おかしいだろう!

 話にならない。

 隣に座るハルちゃんは、先生の発言を聞いて固まっていた。
 ただでさえ白い顔が蒼白になっている。

 もうダメだ。ハルちゃんを連れて部屋を出よう。

 だけど、そう考えた瞬間、ハルちゃんは静かに言葉を発した。

「……先生は、何をしたいんですか?」

「……は?」

 ハルちゃんの言葉に虚を突かれたように、先生は息を飲んだ。

 先生が答える前にハルちゃんは続けて問う。

「先生は、わたしに、何をさせたいんですか?」

「何を……って」

 やはり答えられない山野先生。
 きっと、何をしたのでも、何をさせたいのでもなくて……。

「先生は、わたしの何が、気に入らないんですか?」

 ハルちゃんが三つ目の問いを投げかけた瞬間、山野先生の中の何かがパリンッと音を立てて壊れた気がした。

「何が気に入らないか、ですって?」

 忌々し気にハルちゃんを睨みつけた先生の表情は、とても教育者とは言えないような醜いものだった。

「全部よ、全部! どれもこれも気に入らないったらないわねっ!」

「……例えば?」

 ハルちゃんが冷静な声で受け答えしているのが信じられない。

 もう部屋を出ようと、その手を取るのに、ハルちゃんは気にすることもなく真っ直ぐと先生の目を見て聞く。