15年目の小さな試練

「体調、ねえ? あなた、ずっと二週間以内でいいところを毎週出していたわよね? 今回みたいに、これからは倍の時間をかければいいだけじゃないかしら?」

 山野先生は吐き捨てるように言う。

 確かに、倍の時間をかけていいのなら、何とかこなせるのかも知れない。
 だけど、それでも無理だと思ったから、ハルちゃんは今ここにいるのだと、なぜ先生には分からないのだろう?

 少しの沈黙の後、ハルちゃんは話し始めた。

「わたしの持病は、気温が上がって来るこれからの季節、徐々に悪化します」

 とても静かに語られるハルちゃんの言葉を聞いても、先生のふてぶてしい表情に変化は現れなかった。

「多分、まともに大学に来られる日が少しずつ減っていきます」

「それが、私に何の関係があると言うの!」

 先生が激昂したように、ドンッと机を叩いた。

 その動きと音に、ハルちゃんはビクッと身体を震わせた。

「できないなら、できないでいいでしょう!」

「先生」

 これはさすがに、と思って口を挟もうとしたのに、ハルちゃんから止められる前に、山野先生が早口に言葉を続けた。

「できなかったから出しません、って、そう言えば済む話じゃないの!?」

 そこまで声を荒らげて怒鳴った先生は、フウッと息を一つついて、それからハルちゃんを見据えた。

「で、課題を出さなくて、それで単位を落としたって、それは仕方ない話よね」