続くハルちゃんの言葉に、先生は一瞬虚を突かれたような顔をした。まさか反撃があるとは思わなかったらしい。

 それは、俺も同じ。ハルちゃんが誰かに刃向かったり言い募ったり、そう言うことができるとは思ってもみなかった。

「他の子と、同じ?」

 だけど、先生もすぐに気持ちを立て直したようで、不遜な表情が戻る。

「悪いけど、習熟度をみて課題を選んでいるの、そもそも全員に同じものを渡している訳じゃないわ」

 確かに、建前はそうだろう。
 だけど、あれはやり過ぎじゃないだろうか?

「そう授業の中で説明したと思ったけど? まさか、牧村さん、聞いていなかったのかしら?」

 先生はそう言うと、また、ため息を吐いた。

「……いえ、説明はしていただいています」

「じゃあ、話は終わりで良いわよね? 先々週の課題は明日出してもらえるのかしら? まさか、課題を解くのが面倒で話しに来たのではないわよね?」

 あまりに失礼な物言いに、さすがの俺もムッとする。

 なのに、言い返そうとした瞬間、ハルちゃんがまた俺を止めた。俺の動きを押さえたハルちゃんの手は、ひんやり冷たかった。

「解くのが面倒な訳でも、解きたくない訳ではありません。頂いている課題は明日出すつもりでいます」

 固くこわばったハルちゃんの声。

「ならいいじゃない」

「……体調が良くなくて、とても個人課題までこなしきれないので、本当に申し訳ないんですが、免除してもらえないでしょうか?」

 ハルちゃんはもう一度、とても丁寧に頭を下げた。