15年目の小さな試練

 夜、カナに聞かれた。

「ハル、いつ行こうか?」

 どこにと聞かなくても、山野先生のところにだと分かる。

 先週は休んでいた間のノートを読んだり、休んでいた間に出た課題をやったりしていたら、山野先生の事を考える余裕もなくて、カナとも話しそびれていた。

 ううん。カナはいつも話したそうにしていた。だけど、わたしが山野先生の課題に手を付けなかったからか、カナは何も言わずに待ってくれていた。

「晃太くんが、山野先生の空き時間を調べてくれるって言ってたから、それから決めるね」

「兄貴が?」

「うん。お友だちが山野先生の研究室にいるから聞いてくれるって。でね、研究室に訪ねていけばいいって」

「そっか」

 そう言いつつ、カナはわたしの手元を覗き込んだ。

「それ、山野先生の課題だよね?」

「ん」

「もう、やめるんじゃないの?」

「これを最後にする予定」

 カナは止めようか、どうしようかと視線を宙にさまよわせた。

「本当にこれで最後だから」

 止められる前に言い訳を口にする。

 いらぬこだわりなのかも知れないけど、もらっているものを出さずに終わるのが嫌だった。

 「本当にこれで最後」と言いつつも、もし、山野先生の予定が空いていなくて、もう一度、授業があったら、どうしようと一瞬思った。そして、逆に、なんとしても来週の授業までに片を付けようと言う気持ちにもなる。

 納得したのかしていないのかは分からなかったけど、カナはそれ以上は何も言わなかった。

 代わりに、わたしの肩に手を置いて、

「無理はしないでね」

 と後ろから覗き込むようにして頬にキスをした。



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