15年目の小さな試練

 大学への要求は、大学の職員、それも限られた人間しか知らないだろうけど、知っていたら苦々しく思う人間がいてもおかしくない。札束で頬をはたいているつもりはない。実際、必要だと思って頼んでいるのだから。だけど、そう感じない人もいると分からないほど、オレは脳天気ではないつもりだ。

 ハルはただ、山野先生の授業を真面目に、一生懸命に受けただけ。もらった課題を懸命にこなしただけ。

 最初はちょっとした意地悪だったのかも知れない。小難しい問題を渡して泣きを入れてくるのを見てやろうとか、出来の悪い課題を見て溜飲を下そうとか、そんなささやかなもの。

 だけど、課題を加速度的に難しくしても、ハルは躓くことなく解き続けた。渡した次の週には完ぺきな回答を出してくる。

 ……面白くない、と、そう思ってもおかしくないのかもしれない。

 オレは、ハルの頭をそっとなでた。
 背中をトントンと叩き、ゆっくりと頭をなでる。

 ハルは何も悪くない。

 多分、それは先生の心の問題でしかなくて、いわゆる妬みって言う感情は、妬まれる側にどうこうできるものでもない。ましてや、先生と生徒っていう関係で現れてしまったら……。

「きっと、さ、先生はハルが妬ましかったんだよ」

 ハルは長い長い沈黙の後、小さな声で

「……まさか」

 と呟いた。

 だけど、その呟きには力はない。何となく、それが真実にとても近いところにあるのだろうと気が付いたようだった。

「……そっか」

 ハルは小さい声で、そう言った。