15年目の小さな試練

「あのさ、寝る前にごめんね。でも、ちょっと気になって……。ちょうどいいから、今、話してもいい?」

「うん」

「山野先生のあれ、ホントのところ、特別扱いとも違う気がする」

「……違う?」

 その先を言うかどうか、オレは一瞬迷った。
 こんな事をハルの耳に入れるかどうか。

「…………あれは、ハルに目をかけて、特別力を入れて育てようとか、そういうのじゃなくって、……ただの、意地悪、な気がする」

「……意地…悪?」

 オレの言葉に何か反論するかと思ったけど、ハルは何も言わなかった。そして、少しの沈黙の後、ぽつりと言った。

「………そうかも、しれない」

 そうして、深い深いため息を吐いた。

 オレはハルをそっと抱き寄せた。そのまま、ハルの背中に手を回す。

「……わたし、もしかしたら、そうかも知れないって……分かってたかも知れない。何となくだけど……好意だけじゃないのかなって」

 ハルは訥々と語り出した。

「最初の頃はそうでもなかったと思うんだけど、……最近、もしかしたら、わたし、嫌われているのかもって思ってた……」

 ハルは一度深い深呼吸をしてから、言葉を続けた。

「山野先生、口では誉めてくれるの。頑張ったわね、さすが牧村さんって。だけどね、目は笑っていないの。そして、嫌なものでも見るような目で、わたしの出した課題を見ていた」

 オレには腕の中のハルの表情を見ることはできなかったけど、ハルの悲しそうな笑みが目に浮かぶようだった。

「……分かるよね、そういうのって」

 それから、ハルはまた深いため息を吐いた。