15年目の小さな試練

「ううん。違うの。責めているんじゃないのよ?」

 ハルは小さく左右に首を振る。

 ああ、また我慢させた、そう思った。

 オレになんて気を使う必要ないし、言いたいことを言えばいいのに。

 気が付くと、オレは立ち上がってハルを抱きしめていた。背中を丸めたオレのお腹の辺りにハルの頭が来る。

「……カナ?」

「何となく……ホント、何となくなんだけど、ハルの気持ちが分かった気がする」

 手加減なく、次から次へと「できるものなら、やってみなさい」とばかりに難題を渡してくる山野先生。きっと、ハルにはすごく新鮮に感じられたんだろう。

 ハルも立ち上がって、ギュッとオレにしがみついてきた。

「……嬉しかったんだもん」

 ハルはぽつりと小さな声で言う。

「そっか。嬉しかったんだ」

 オレが繰り返すと、ハルは小さく頷いた。

 オレはハルをベッドに座らせ、隣に腰掛ける。

「……はじめてだったから」

「山野先生?」

「……ん。どんどん勉強しなさいって言ってもらえたの、はじめてだった」

 ハルはふわっと優しい笑顔を浮かべた。

「思う存分勉強していいよって言われた気がしたの」

「そっか」

「……わたし、走ったりの運動は一つもできないけど、……頭を動かすことなら、できるんだよ」

 ハルは遠くを見つめて、そう言った。

「うん。……知ってる」

 オレよりずっと賢いハル。

 記憶力も良くて、頭の回転だって抜群に速い。