15年目の小さな試練

 一体、どこに不安があったのだろう、そう思った。

 だけど、目の前のハルは今にも泣き出しそうで、その不安はきっとハルにしか分からないものなのだろうと思った。

 そして、ああそうかと納得もする。

 誰に言われなくても、むしろ止められても勉強をしようとしたハル。

 いつだって、とても真面目に一人、黙々と頑張るハル。

 もしかして、誰にも求められない中で、むしろ誰からも止められる中で、一人その意志を貫こうとするのは、オレが思うよりずっと辛い事なのかも知れない、そう、初めて気が付く。

「……ハル」

 力いっぱい頑張りたいのに、頑張れない。余力がある時だって止められる。

 一人、今のままでいいじゃないと言われる。

 もう、それだけできたら十分だと言われる。

 だけど、誰かが言う「大丈夫」なんて言葉は、ハルには不安の元でしかなかったのかも知れない。

 例えその時、学年トップクラスにいたとしても、体調を崩して長期入院でもしようものなら、呆気なく、一気に転がり落ちる可能性があるのだから……。

 実際には、ハルはずっといい成績を保ち続けていた。

 多分、ハルはそのために、ずっと、誰が「しなくていい」と言っても、できる限りの努力をし続けていた。

「……なんでかな?」

 ハルはポツリと言った。

「けっこう、元気な時だって、無理するなって言われるの」

「……ごめんね、ハル」

 多分、その筆頭はオレだ。

 ハルはオレの言葉を聞くと、目を大きく見開いて驚いたような表情を見せた。