「医務室、行こう」

「カナ、……座って休んでたら、すぐ治るから」

 ……たぶん。

 だから、授業に出てもきっと大丈夫。
 そうじゃなくても、食堂の片隅で少し休ませてもらえたら……。

「じゃあ、医務室で少し寝てたら、もっと早く治まるね」

 カナはにこりと笑って歩き出す。

「あの……歩けるし」

「歩けるかも知れないけど、歩かない方が早く楽になるよ?」

 カナは笑顔を崩さず立ち止まることもなく歩き続ける。
 それを見た海堂くんが、面白そうにクスクス笑った。

「ハルちゃん、気にせず甘えたらいいんじゃない? 旦那さんの愛は深海より深そうだし」

「そう。ハルへの愛の深さには自信ある」

 その言葉を受けて、海堂くんはまた笑う。

「ハルちゃん、真っ赤」

「よかった。それだけ顔色が良かったら大丈夫そうだな」

 カナも嬉しそうに笑う。

 高校生の頃も、こうやってよく運ばれた。だけど、クラスのみんなも学年が同じ人たちも、何なら高等部に通う人たちは学年が違っても割と慣れっこで、「ハルちゃん、大丈夫?」とか「お大事にね」とか気軽に声をかけられるくらいには、いつもの事だった。

 でも、大学に入った今は違っていて、好奇心いっぱいの視線を受ける。

 そもそも、こんな姿を海堂くんに見せるのだって初めてで……。

 いつもの事のはずなのに、何だかとても恥ずかしくて、わたしはカナの胸に顔をうずめた。

 恥ずかしいと思えるくらいには体調も悪くないんだと自覚した時には、不整脈もすっかり治まっていた。

 だからといって、カナが授業に出るのを許してくれるはずもなく、強制的に医務室で休憩を取ることになった。