「ハル? どうした?」

 気が付くと、カナの服の裾を掴んでいたらしい。

「……あ」

「ハル、顔色、悪い」

 カナが慌てて立ち止まり、真剣な表情でわたしの顔を覗き込む。

 気が付くと、えみちゃんの言葉を聞いた場所から、数メートルは離れた食堂の入り口付近まで歩いていた。

 ……ここなら、えみちゃんに見られないで済む。

 反射的にそんな風に思った自分が、何だかとても悲しくて、そして情けなかった。

「……あの、なんでも、」

「なくはないよね?」

 カナはわたしの言葉をかぶせるようにして遮り、慣れた手つきでわたしを抱き上げた。

「なに、ハルちゃん、具合悪いの? 大丈夫?」

 海堂くんが心配そうに、わたしの顔を覗き見る。

「てか、叶太、言えよ。荷物くらい持つし」

 そう言って、海堂くんはカナから荷物を受け取ろうとするけど、デイパックは背負っていて、わたしの鞄は肩にかけていて、その状態でわたしを抱き上げてるから、受け取りようがなかった。

「悪い。次からは頼むな」

 カナはさわやかにそう答える。

「あの……カナ、わたし、大丈夫」

 だから降ろしてと言おうとするのに、最後まで言わせてもらえずに、

「大丈夫じゃないって」

 と、カナがかぶせて言う。

 実際、大丈夫と言い切れるほどではなかった。

 確かに、やけに心臓があおっていた。不整脈が出ている。

 だけど、そんなにひどいものではなくて……。