15年目の小さな試練

 翌日、金曜日もまだ熱は下がらなかった。39度代後半と前半を行ったり来たり。

 さすがにこの高熱が続くのはつらい。

「ハル、じゃあオレ、大学行ってくるね?」

 カナが心底心配そうに、ベッドに横たわるわたしの顔を覗き込む。

 行かないで、と一言いったら、カナは多分側にいてくれる。だからこそ、絶対に口にはできない。

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 気合いを入れて、口角を上げる。

 昨日も、カナは病室に泊まってくれた。
 こんな落ち着かない環境で、ソファベッドなんて寝心地の悪い場所で、カナは文句一つ言わずに付き添ってくれる。

 カナも疲れているんじゃないかな?

「また、夕方に来るから」

 慌てないでいいから、とか、家でゆっくりお風呂も夕飯も済ませてから来てね、とか、わたしが言ったとしても、カナがそうしないのは、この十ヶ月ほどの結婚生活でもう分かっていた。だから何も言わない。代わりに、

「待ってる、ね?」

 そう言って、カナの手をキュッと握るとカナは心底嬉しそうに笑みを浮かべた。

「講義が終わったら、急いで帰ってくるから」

 そう言って、カナはわたしをそっと抱きしめ、額にキスを落とした。

 それだけじゃ足りなくて、もっとしっかりカナを感じたくて酸素マスクを外すと、カナはとろけそうな笑顔を見せて、わたしの両頬を手のひらで挟むと、そっと唇にキスを落とした。