15年目の小さな試練

 カナがふたを開けると、出てきたのはイチゴ。

「ダメそう? ……じゃあ、こっちは?」

 とカナはまた小振りなタッパーを取り出して、ふたを開ける。

 今度はパイナップルが入っていた。

「これはどう?」

 今度はキウイ。

「これでもない? じゃあ……」

 その次にタッパーから現れたのは、薄皮まで剥かれたグレープフルーツ。

 カナはにこにこ、楽しげに果物の入ったタッパーを並べていく。

「じゃあ、これとかどうかな?」

 そうして出てきたのは、桃、丸ごと一個。

「これは、剥くと味が落ちるから、そのまま持ってきた」

 楽しげに笑いながら、カナは紙袋から果物ナイフも取り出した。

 次々に並べられる果物に、呆然としていると、最後に大きなお弁当箱が出てきた。

「あ、これはオレの夕飯。ハルが食べなかった果物はオレのデザートになる予定」

 カナはくすくす笑いながら、わたしの頭にキスを落とす。

 気がつくと、食べなきゃというプレッシャーはどこかへ行ってしまっていた。

 病院のご飯に添えられた果物には全く食指が動かなかったのに、カナが並べてくれた果物は、何故か魅力的に見えた。

「……あのね」

「うん」

 カナはせかすことなく、わたしを見て優しく微笑んだ。

 わたしはそんなカナの目を見て、ゆっくりと桃に手を伸ばす。

「……桃がいい、な」

「了解!」

 カナは満面の笑みを浮かべると、

「すぐ用意するから待っててね」

 と歌でも歌いそうなくらいご機嫌な様子で、紙袋の中からガラスの器とフォーク、そして、おしぼりを取り出すと、おもむろに桃を剥き始めた。