15年目の小さな試練

「おはよう、ハル」

 カナはわたしの髪をなで、嬉しそうに笑った。

「……おはよう」

 ぼんやりと、かすれる声で返事を返すと、カナはまたにこりと笑った。

「のど乾いてない? お水飲む?」

「……ん。飲む」

「じゃ、ベッド起こそうか」

 カナはそう言って、ベッドサイドのリモコンを手に取った。

 ウィーンと小さな機械音がして、背中部分が起きあがる。まだ寝ぼけたままの身体が傾ぐと、カナが支えてくれた。

 カナがお水の入ったコップを手に取るのを見て、酸素マスクを外した。

「はい」

「ありがとう」

 と受け取ろうと思ったのに、寝起きの手には力が入らなかった。カナには想定内だったみたいで、そのまま手を添えて、コップを口元まで運んでくれた。

 ゴクリと一口飲んだ水は冷たくて美味しかった。

「ご飯、食べられそう?」

 見ると、テーブルにはお昼と同じようにおかゆと、その他に煮物と果物が乗ったトレーが置かれていた。

 食べなきゃと思いつつ、食べられる気がしない。

 固まっていると、カナがくすっと笑って、

「ちょっと待っててね」

 と席を立った。

 どこからか紙袋を持ってきたと思うと、カナは夕食のトレーをソファの方のテーブルに移動した。
 そして、膝の上に置いた紙袋から、

「これならどうかな?」

 と小振りなタッパーを取り出した。