「ハル、何考えてるの?」

 おめでとうの言葉に黙り込んでしまったわたしに、カナは優しく問いかける。わたしを抱きしめる腕は緩めることなく、髪を優しくなでながら。
 でも、なんて言って良いのか分からない。そうしてただ、

「ごめんね」

 と、カナの胸に頰を押し付けながらそう言うと、カナはわたしが何を考えているかなんて知らないはずなのに、大丈夫だよとでも言うように、わたしを抱きしめる腕にギュッと力を入れると、トントンと背中を優しく叩いてくれた。

「今、7時かな? もう少し寝る?」

「……ん〜。もう、起きる。……けど、」

 カナはまたわたしの頭に手をやり、優しくなでる。

 カナにベッドの中で抱きしめられている現状が、未だに、たまに信じられない自分がいる。
 カナの体温はわたしより大分高くて、とても温かい。

 去年のあの日、カナが強引に両親やおじいちゃん、広瀬のお義父さまやお義母さまの許可を取ってプロポーズしてくれなかったら、もしかしたら、今ここに、この温もりはなかったのかも知れない。
 そう思うと何だか急に怖くなり、わたしはギュッとカナにしがみついた。
 あの時は、プロポーズなんていらないとあんなに駄々をこねたくせに、今はもう、カナなしの自分なんて考えられない。

 なんか、わがままだな……わたし。

「ハル?」

「……ん。もう少しだけ、……こうしていたい」

 そう言うと、わたしの頭の上で、カナが嬉しそうに笑う気配がした。

 ああ、幸せだなぁと思いながら、そうか、これはわがままなのではなく、欲張りなんだと気がついた。
 わたしは多分、去年のわたしよりずっと欲張りになってしまったのだと。