15年目の小さな試練

 あまり眠れないままに日が登りはじめた。

 ハルを一人で置いていくのは心配で、今日の走り込みは中止。
 その代わり、雨の日にやる筋トレを寝室ですることにした。

 筋トレをしながら、昨夜の兄貴の言葉を思い出す。

 ……やっぱり、無理やりにでも課題をやるのを止めれば良かったのかな。

 いや、でも、あんなに楽しそうにしていたハルを止めるの?

 楽しそうにしている上、ずっと難しい問題なのに、オレなんかより、よっぽど短時間でこなしているハル。寝る時間だって、遅くなったと言っても、夜十時。今時、小学生だってもっと遅くまで起きているだろう。

 土日だって、平日の夜だって、普通の大学生は遊びまわっている。

 だけど、ハルは体調を崩さないように、部活もサークルもせず、遊びに行くこともなく、本当に家でゆっくりと身体を休めている。

 そんなハルが唯一力を入れているのは、勉強。

 ……それを、オレが止められるのか?

 ピアノだって、習っていると言っても、自宅で兄貴から週にたった三十分だ。気心が知れた相手だし、ストレスだってないと思う。

 兄貴には散々くぎを刺しておいたから、無茶なことは言わないだろうし。

 普段の練習だって、ハルがするのは十分、十五分程度で、身体の負担になると言う程ではない。大体、体調がひどく悪かったら、練習だって休むわけだし。

 それくらいの楽しみ、あったっていいよな?