15年目の小さな試練

 晃太くんのレッスンでは、まず最初にわたしが一人で弾いて、その後に晃太くんが気になるところを教えてくれる。そこを直してまた弾いて、教えてもらって、というのを何度か繰り返す。

 ちょっとしたアドバイスなのに、晃太くんの言う通りにすると、バラバラだった音がちゃんと曲になる。本当に不思議。

「いいね! すごく良くなったよ!」

 初めての日から変わらず、今日も晃太くんは誉め上手。
 いつもと違って、リビングのソファにはカナもいるから、何だかとても恥ずかしい。

 何度目かの演奏の後、晃太くんは

「これなら、今日で仕上がりそうかな?」

 と言った。

「え、ホント?」

 思わず、晃太くんを見上げると、晃太くんはとても優しく笑ってくれた。

「うん。ハルちゃん、ホント、よく頑張ったね」

 その言葉に、ふわりと心が温かくなる。そして同時に、お腹の底からふつふつと嬉しさが沸き上がって来た。

「いい笑顔」

 晃太くんはニコッと笑うと、わたしの頭にふわりと手を置いた。

「じゃあ、もう一回弾いてみようか?」

「はい!」

 晃太くんに注意されたところをしっかり心に思い浮かべ、わたしは鍵盤にそっと手を置いた。
 あっと言う間に時間が過ぎて、

「うん。すごく良くなった! じゃあ、次で最後にしよう。思いっきり、楽しんで弾いてみて」

 と晃太くんが言う。

 ああ、そうか。

 これで最後という事は、もうこの曲は終わりなんだ。

 来週には、違う曲って事だよね?

 何だか、とても名残惜しい。

 だって、ほとんど毎日、弾いていたんだよ?

 心を込めて弾こう。晃太くんが言う通りに、楽しんで弾こう。

 自然と、そう思えた。

 そうして、私は静かに曲を奏で始めた。