15年目の小さな試練

 カナが部活に行く時も、毎週、お迎えの車までは送ってくれる。それもあって反射的にその手を取ると、カナはニコッと嬉しそうに笑ってくれた。

「ハルが大丈夫なら、ピアノのレッスンは止めないよ。だけど、オレも見学させてね?」

「あの、でも、カナ……」

 背中をそっと押されて、そのまま歩き出しながら、訳も分からず言葉を返そうとすると、カナは有無を言わさぬ様子で続けた。

「今日は空手は休み。ハルだって空手の見学しただろ? オレにもたまには見せてよ、ピアノのレッスン」

「……え…っと」

 本当に空手、休むの?

 わたしの体調が良くなさそうで心配だから、と言うのなら断った。

 だけど、わたしが空手の見学をさせてもらったのと同じように、ピアノのレッスンを見せて欲しいと言われると、断ってはいけない気がする。

 だって、見学させてもらえて、わたし、本当に楽しかったから。

「今日で4回目だっけ?」

「うん」

 答えてから思い出す。

「でも、カナ、いつもわたしが弾くの、聞いてるよね?」

 レッスンの見学こそしていないけど、わたしが練習するのをカナはほぼ毎日聞いている。

 だけど、カナは楽しそうに笑うと、

「ハル一人でする練習は見せてもらってるけど、兄貴とのレッスンは別物だろ?」

 と言って、わたしの髪をくしゃりとなでた。