「あの、改めまして、陽菜ちゃん、叶太先輩、卒業おめでとうございます!」

 やけにきっちり腰を折って、一ヶ谷は頭を下げた。
 それから、手に持った小ぶりな花束をハルに差し出した。

「え? わたしに?」

 ハルが驚いたように目を見張ると、

「ささやかだけど」

「嬉しい! ありがとう!」

 ハルはピンクのバラを中心にした、柔らかな色合いの花束を持って、とろけるような笑みを浮かべた。

「よかったな」

 卒業式の後、部活動をしていたやつらは後輩たちから花束をもらい、記念撮影をし、涙ながらの別れだったり、元気いっぱいの壮行会なんかをしてもらっている。だけど、オレたちにはそういうのはなかった。

 だから、花束の贈り主が、オレ以外の男で、かつハルに横恋慕している男だとしても、ハルの嬉しそうな顔を見たら、オレは何も言えないんだ。

「それで、あの……」

 言いにくそうにオレの方を見る一ヶ谷。
 それで、何となくピンと来た。

「写真、撮る?」

「はい! お願いします!」

 一ヶ谷ははじけるような笑顔を見せる。
 オレはぐるりと辺りを見回して、手を振りながら声を上げた。

「すみませーん、写真お願いしまーす!」

「あ、はい! すぐ行きます!」

 と数メートル先から、写真係が走って来たので、持っていたカメラを手渡す。
 隣で一ヶ谷が、笑っちゃうほどがっかりした顔をしていた。それでも、

「あの、これもお願いします」

 と写真係にスマホを渡す。

「はい。ハルが真ん中ね?」

「うん」

 一ヶ谷とオレに挟まれて、花束を持ったハルが柔らかな笑顔を浮かべた。
 卒業式での涙はすっかり乾いていた。

「撮りますよ~。はい、3、2、1……」

 カシャカシャカシャ。

「スマホでも撮るので、もう一回~。はい、3、2、1……」

 カシャ。

「念のため、もう一枚行きますねー」

 カシャ。

「ありがとう!」

 オレたちの声を受けて、写真係が足早に近付いてくる。

「素敵な笑顔、ありがとうございました」

 写真係の後輩は、オレにカメラを、一ヶ谷にスマホを返しながら、ハルの方を見てにこりと笑った。

「いえ、あの……こちらこそ、ありがとうございました」

 ハルがもう一度、やけに丁寧に感謝の言葉を述べながら、ぺこりと頭を下げた。