「じゃあ、撮りますよ~!」

 誰の持ち物か、立派なデジタル一眼レフを持つのは写真部の2年生男子。腕には『写真係』の腕章、肩からは『写真撮ります。遠慮なくどうぞ!(写真部)』のたすき。

 何年か前にこのシステムを編み出し、写真部の部費が増えたという噂があるけど、本当だろうか? 一番重宝がられているのは卒業式だけど、入学式他、各種イベントにも出没している。
 ただし、不正に写真が流出するのを防止するため、カメラは撮られる人の物を使うのが決まり。

「はい、3、2、1~」

 カシャカシャカシャ。
 シャッター音が何度か鳴る。

「うーん。表情硬いですよ~。もう何枚か撮りますね。もう少し自然な笑顔くださーい!」

 カシャカシャカシャ。

「いや、笑顔ですよ? 泣き顔要らないから!」

 その言葉で誰かが吹き出す声がして、くすくす笑う声もして、その瞬間、またシャッター音が鳴る。

「はい、ありがとうございました~!」

 ありがとうは、こっちの言葉だとばかりに、写真係に向かって「ありがとう!」の言葉が飛び交った。



 帰宅部のオレたち二人には、写真を撮り終えた後に話をする部活の後輩なんてものはいなくて、先生に軽く挨拶をしたら、待っている親の元へ向かうだけ……だったところに、おずおずとやってきた二年生男子。

「陽菜ちゃん、……と広瀬先輩」

 久しぶりに見かけたのは、ハルに長く横恋慕していた一学年下の一ヶ谷悟。

「あれ、一ヶ谷くん? 久しぶりだね」

 ハルは屈託なく、一ヶ谷に笑顔を向けた。

「オレはもう広瀬じゃないぞ」

 思わず言及すると、

「すみません。……なんて呼んだらいいか迷っちゃって」

 と、一ヶ谷は申し訳なさそうに答えた。

 その言葉と心底困っているといった表情に思わず拍子抜け。
 ハルと結婚したのを認めたくないあまりに、旧姓を持ち出したのかと思ったから。

「牧村先輩……ってのも微妙だよな? じゃ、名前で呼べばいいんじゃない?」

「えっと、叶太先輩?」

 妙に照れ臭げな笑みを見せる一ヶ谷に、こっちが照れてしまう。

「おう」