「あ、ごめん。いや、でも別れたって!」

 今の彼女とは多分、オレたちの結婚前から続いていたはずだ。オレが知っている限り、今年の春はまだ付き合っていた。

 はっきり言って、兄貴はモテる。整った優しい顔をしているし、すらりと背も高いし、穏やかで性格も温厚、人当たりもすごくいい。多分、高校生の頃から彼女が途切れたことはほとんどない。

「うーん。別れたのは割と最近。もういいかなと思って」

「え、最近? って、ちょっと待って!? もしかして、オレのせい!?」

「いや、そんな事ないから、心配するな」

 兄貴は穏やかにそう言うけど、嫌な予感がする。こう言う勘って、けっこう当たるんだ。

「……多分、違うよね? それ、絶対オレのせいだよね? ごめん、兄貴! どうしよう、オレ、彼女さんに謝りに行こうか!?」

「叶太、落ち着け」

「いや、落ち着けないし!」

 兄貴は困ったように言葉を続けた。

「なんて言うかさ、潮時だったんだよ。だから、お前のせいじゃない」

「……いや、だけど」

 だけど、オレが無理なお願いしなかったら、別れたりしなかったんだよね?

 オレが察してしまったのを感じて、兄貴はそれ以上、オレのせいではないと言わなかった。

 もしかして、オレ、この話題に触れない方が良かった?

 何であれ、男女間の話に弟が口出すとか、おかしい?

「あのさ、叶太、こんな話をお前にするのは何だけど、普通に付き合ってたら、別れることって結構あるからな?」

「ん?」