15年目の小さな試練

「表計算ソフトとかは、いつから?」

「いつからだろう? ……ああそうだ。お袋がPTAの役員になって、資料を作るのに苦労してたんだけど、パソコン使えるなら手伝ってよって言われて」

「すごい!」

 お義母さまがPTAの役員さんをされていたのって、確か、中学1年生の頃だもの。その頃に、もう使えたなんて。

「ううん。最初は全然ダメだったの。で、無理ならいいわって言われたら、なんかすごく悔しくて、そっから勉強した」

 カナの言葉に、中学1年生のカナの奮闘を想像して、思わずくすくす笑ってしまった。

「そんなにおかしい?」

「ううん。カナ、可愛いなーと思って」

 わたしの言葉に、カナは少し憮然としたけど、だって可愛いものは可愛いもの。

「……可愛いのは、ハルだと思うけど」

「……え?」

 思わず、まじまじとカナの顔を見つめると、カナが真顔でつぶやいた。

「もう、待てない。ハルに会いたい。ハルを抱きしめたい」

「……カナ」

 今は日曜日の夜。

 だから、寝て起きたら、もう晴れてカナと会える時間。

 もう、いいのかな? ちょっとくらい、破ったって大丈夫?

 だって元々の外出停止期間は終わっているのだもの。

 持病がある人だって、多分、ここまで念には念を入れて隔離するなんてこと、していないと思う。

「……けど、月曜日までは待たなきゃ、ね。……はぁ」

 わたしが思わず『帰っておいでよ』と言ってしまう、ほんの少し前に、カナは我に返ったようにため息を吐いた。

「……うん。……ごめんね」

「ああ、いいのいいの。ハルが謝る事じゃないって。大体、こんな季節にインフルエンザなんて拾ってきたオレが悪いんだから。それに、後数時間だよね」

 とカナはふわっと笑った。