「お天気が良くてよかったですね」

 食卓に果物の盛り合わせを出しながら、沙代さんが笑顔で言う。

「本当に良いお天気ね」

 ハルは窓の外を見やってから、沙代さんに笑顔を返した。

 春の日差しに庭の木々が照らされて、窓からは木漏れ日が漏れ入る。空は抜けるように青かった。

「花粉症の人は大変かもな」

 そんな言葉を口にするのは、お義父さん。

「随分、良い薬が出てきたけど、ダメな人はダメなのよね」

 応えるのは、お義父さんの隣に座ったお義母さん。

「薬自体、飲むのが面倒だしな」

 お義父さんの言葉にお義母さんもうんうんと頷いている。
 薬はどうか知らないが、お義母さんには愛飲している栄養ドリンクがある。あれは面倒ではないのだろうか?

「強い薬は眠気も出るしね」

 お義母さんはそう言って、コーヒーに手を伸ばした。今度はあくびをかみ殺している。昨日も遅かったし寝不足なのだろう。遅番や宿直の翌日は普通ならまだ寝てる時間だ。

 ハルはお義父さんとお義母さんの会話をにこにこしながら聞いている。

 四人で朝食をとることも珍しい。お義父さんは出張でそもそも国内にいないことも多いし、お義母さんは週に何回かは当直と遅番で夜も朝も会えない。

「ハル、果物、食べられる?」

 オレが声をかけると、ハルは

「あ、うん。少し」

 そう言って、テーブルの真ん中に置かれた皿に手を伸ばす。それを制して、オレは小皿にキウイとリンゴを取り分けた。

「はい」

「ありがとう」

 ハルがオレの目を見てにこりと笑う。ハルの視線が自分に向いていて、ハルが笑っている。この瞬間がたまらなく好きだ。
 もちろんオレも笑顔を返しながら、自分の分も皿に取って食べる。

 オレもハルも今日は部屋着。いつもは制服で朝食を食べるけど、今日は少し出るのも遅いし、着替えはこれからだ。

「ごちそうさまでした」

 ハルの挨拶を待って、オレも「ごちそうさまでした」と手を合わせてから席を立つ。

「じゃあ、ハル、制服に着替えようか」

「うん」

 オレがイスを引くと、ハルはゆっくりと立ち上がる。

「あれ、これから着替え?」

 と今頃気付くお義母さん。答えを求めることもなく、そのまま隣のお義父さんに声をかける。

「今日、十時に講堂集合だったっけ?」

「そうそう。私たちはまだ時間があるから、響子さんは少しゆっくりすると良い」

 二人のそんな仲むつまじい様子を背中に感じつつ、オレたちは寝室に戻った。